14話「告白」

ノンフィクション

時刻は深夜1時を周り、いつもの通り、先程まで忙しく動き回っていた店員も、賑わいを見せていた客も、大人しくなっていた。

私は決して、佐藤さんの非行を疑っていたわけではない。中学生の時の自分を、佐藤さんの環境に置いて想像したとき、単純に「よく耐えられたもんだ」と感じたから、ある意味では尊敬も込めて言葉を発しただけだ。思いもよらない告白で、私は返す言葉を探していた。

その時間は、とても長く感じた。佐藤さんは私の目を直視し反応を待っていた。その不安な表情から、佐藤さん自身が覚悟を持って打ち明けてくれた事実であると感じ取れた。深刻な語調で返答するのは、かえって佐藤さんに私の動揺を抱かせはしないだろうか。私は、驚いた表情をして居心地の悪い間を埋め、あくまで自然な反応を取り繕った。

「おぉー。やっちゃってるね」きっと、私の目は泳いでいたと思う。

「やっちゃたよー」私からは、佐藤さんは少し安堵しているような様子に見えた。

「というか、やっちゃってるよ、かな。一回じゃないし」だからこそ、その後の言葉を続けてくれたのか、それとも、もはや引き戻せない状況に身を任せるように、全てを告白する気持になったのか。

「何回もやったの?」私は間髪入れず、直ぐに聞き返した。佐藤さんから言葉を続けてくれた分、気が楽だった。

「毎日」自嘲的な笑みのまま、佐藤さんは答えた。

「え?」意表を突かれた私は、驚きを隠すことができない。

「ほぼ毎日。高校3年でバスケ辞めて、バイト始めるまで」

「それは、凄いね」途端に返す言葉を失い、間の悪い空気に一変する。

「えーと、それは、親の財布からくすねてたってこと?」一呼吸置いて、まずはその経緯を聞くことにする。

「親父がスーパー経営してるでしょ」

「うん」

「家に、金庫があるんだよ」

「うん」この展開は、「やばい」予感がする。

「中学の時、親も兄貴達もいない時間に、その金庫を開けて」

「とっちゃったの」佐藤さんが話し終える前に、思わず口が出る。佐藤さんの口から、その事実を言わすことに抵抗があったからだ。

「初めは純粋な物欲だよ、買いたい物があって、お金が必要だっただけ」

「いつから?」

「小学三年生かな」

「小学生かよ」小学生三年生といえば、佐藤さんが兄や姉から暴力を受け始めた時期と重なる。その頃から、佐藤さんの中には何か歪みがあったのだろうか。

「何が欲しかったの、そんなに」

「遊戯王カードだね」

「あぁー。遊戯王か」その一言で、私は全ての察しがついた気がした。

遊戯王カードは、90年前後に生まれた男児にとっては、誰もが一度は触れたことのある、想い出深いカードゲームだ。週刊少年ジャンプに連載され人気が爆発し、カードゲームとしての地位を確立した。遊戯王カードの交換とともに、バイ菌をも交換して熱にうなされた男児もたくさんいるだろう。

カードを手に入れるためには、当然何度もカードを購入する必要がある。所為、子供のカードゲームと思うかもしれないが、財力のある者が圧倒的優位になれる、至極現実的な遊びなのだ。そして、小学生なんてものは、足が速ければ人気者になれるような、表層的な面を何より重視する。つまり、人気のゲームを持っていたり、強力なモンスターのカード―レアカード、と呼ぶ―を持っている者は、それだけで人気を得ることができるのだ。

「でも、中学生以降はバスケしかなかったわけじゃん。遊戯王とか遊びにうつつを抜かす暇もないくらい、没頭していたんでしょ」

「当たり前になってくるんだよね、常にその金額を持っている状態が。だから、別に特別欲しい物が無くても、財布に入っていることが普通になっていって」

小学生の時から、佐藤さんが満たされなかった「愛情」は、金や物で代替されていた。そしてそれは、具体的な物欲対象が特に無かった中学生以降も続く。

小学生の時は、純粋な物欲と不十分な愛情から、無意識に手を出した。中学生になると、バスケットボールに自分の居場所を見出そうとしたが、周囲の目を気にするようになり、自分がありのままでいられるはずの世界でも、我慢の必要性を知る。

きっとその我慢は、小学生の時に兄や姉から受けていた時の「我慢」、両親との交流が希薄なことに対する「諦め」の延長線上にある。「親の金を取る」という行為を続けることで、自分の満たされない感情を包み隠すことができた。周囲から愛されていた無得点キャプテンは、誰も知らないところで罪を重ねて、ようやく立っていられたのかもしれない。

「家族にバレるっていう気持はなかったの」

「あったよ。というか、気付いていたんじゃないかな。特にお母さんは。財務担当だったから、普通に気付くと思うよ。だって、数字が合わないんだから」

「だとしたら、何で黙ってたんだろう」

「多分、自分から言って欲しかったんだろうな」その口調から、佐藤さんが今でも誰にも言っていないことが分かる。

「だから、今となっては本当に心残りだよ。いくら謝ったところで、お母さんはその事実も忘れているだろうから」

佐藤さんの言葉が、虚しく空中に漂う。誰に届くこともなく、居酒屋の静けさに溶け込んでいく。

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